忙しいから、ね





朝刊配達を始めたから、君よりも早くママは眠るようになった。
「寒いし、クタクタになるんだ。だからだよ」
「ふーん…」
ママの言葉に頷いてくれた君は、けれどやっぱりどこか
不満そうで寂しそうで、ママもちょっぴり申し訳なくなる。

でもね。君は知らない。
ママが毎朝、仕事に出かける前に、ママの隣で眠っている君の
ピンク色のほっぺにそっとキスしているのを。
君がいるから、ママは頑張れるんだよ。もちろんパパも。
まだまだパパのお仕事は「これから」だから、ママも一杯、
ママの出来ることで助けなきゃいけない。
そのために、君にも寂しい思いを一杯させてしまうかもしれないけれど。


だから…食べるのがちょっぴり遅い君に、今日は早い目の晩御飯。
早く食べて、二人だけで一緒にお風呂に入ろう。
パパに連れられて出かけていった君の弟君が戻ってくる前に。
ゆっくりお湯に浸かって、女の子同士の話を一杯しよう。

そして、まだお日様も眠っているあくる朝。
やっぱり君より早く眠ってしまったママは、そんな時間まで
頑張って仕事をしていたパパに起こされて、君のほっぺにそっと
キスをする。 


FIN〜





著者後書き:本当にショートショート。原稿用紙一枚にも満たない文章の中で、どれだけ
状況描写が出来ているか…難しいところです。