ずっと、君の側にいるよ。





君は、君が初めて僕を僕だと知った時から、僕を放さなかった。
お昼寝の時には、僕をその小さい指でぎゅうっと握り締めて、
だから僕は君が寒くならないように君をずっとあっためていた。
時には僕を作っている布のきれっぱしを、小さな歯で齧ったりもした。

君はどこへ行くにも僕を連れて行った。
おばあちゃんの田舎にも、幼稚園にも、そして習い事にも
僕を連れて行こうとした。
君のママはそのたびに「今日は置いていきなさい」なんて
苦笑交じりに言っていたっけ。

…あれから何年も経って、僕は君のママに洗濯されるたびに
擦り切れて行ったけれど。

「あらあら、今日は風が強かったからねえ」
いつもみたいにベランダに干されていた僕は、朝から強かった
風に吹かれて、側の置物にふわりと被さっていた。
「ママ、ちょっと待って」
君のママが僕を取り込もうとしてくれたとき、君はまん丸な目を
もっとまん丸にして僕を見る。

「犬さんみたいだよ。ほら」

君の小さな体に夕日が映した僕の影。
僕が被さった置物は、そのせいでまるで犬みたいに君の
服に影を作った。

「そうねえ」
そして僕は、すぐに僕を取り込もうとしないで君と一緒に
そう言って微笑った君のママも大好きだ。

しばらくしていつものように夜が来て、僕は君をあっためる。
君はすっかり擦り切れてしまった僕の…クマのタオルケットの
端を握り締めながら、やがて小さな寝息を漏らし始める。
いつか僕は君の側に、嫌でもいられなくなるだろう。
けれど君と一緒に夜の夢を見ながら僕は思う。
…ずっと、君の側にいるから。



FIN〜





著者後書き:とある場所でお知り合いになりました方のお写真から(許可は得てあります)。
干しておいたタオルケットを取り込もうとしたら、側においてあった置物に、まるで
犬のような形でふわりとそれがかぶさっていたそうです。その光景が何とも愛らしくて…。