約束をしよう





君は、指切りをまだ忘れていない。

まだまだ小さくて細い指。けれど少しだけ伸びた小指だけを
突き出して、
「指切りしよう」
君はママに言うんだ。
「人の悪口を言わないように。言ったらハリセンボン飲ーます」
「早く帰ってこられるように。守れなかったらハリセンボン!」
あんまり楽しそうに言うものだから、これが「制約」なのだということを
すっかり忘れてママは君と指切りをする。

そしてある日、気づいたんだよ。
君は、小学校に入学してから、一度も同じクラスの子達の
悪口を言ったことがないね、って。

決して友達が多いほうじゃない。本当に本当に、マイペースな君なのに、
嫌われている風でもなく、仲間はずれにされている風でもないのが
ママはとても不思議だった。
けれど、それが何故なのか、やっと分かったような気がするよ。

だから、ママも約束をしよう。
「たとえテレビに出ている人であっても、君の前では
人の悪口を言わないこと」
ついうっかり忘れそうになること。
大人になったら、それは何故かとてもとても難しいことに
なってしまうのだけれど。

「まま、指切りをしよう」
今日も君は、そう言って小指を突き出す。
それに思わず微笑んで、同じように突き出した指をママが絡めたら、
「いつも笑っていること」
君が言う。
君がいてくれたらお安い御用だとママは笑う。 




FIN〜





著者後書き:はい、親ばかショートショート(苦笑)。第一弾なので、多分しばらく続きます。
ほっこり感、みたいなのを表現できていたら嬉しいのですが…。